生産者STORY

 
みうら食品STORY
 
「手打ち」品質にこだわる麺づくりで、そば王国・山形の乾麺産業をリード
株式会社みうら食品 代表取締役社長 藤田健憲さんに聞く 
澄んだ空気と清流。豊かな自然に恵まれた山形県東根市に、乾麺の製造工場を構える「みうら食品」。そば王国・山形の地で、乾麺産業をリードしている製麺メーカーだ。
あくまでも「手打ち」の品質を追求して、製造ラインのすみずみまでを徹底管理。そこには、「そば職人」のこだわりが存分に活かされている。
 
恵まれた環境でベストの麺を
 
恵まれた環境でベストの麺を
将棋駒で知られる山形県天童市。そのJR天童駅から車で20分ほど走ると、周辺の環境はガラリと変貌する。凛とした空気、鮎も生息する澄み切った乱川(みだれがわ)、遠くに蔵王連山。豊かな自然のまっただ中に山形県の麺産業をリードするひとつの生産工場が建つ。株式会社みうら食品だ。
「当社は昭和25年に創業した会社です。創業当初、玉うどんや豆腐の製造が中心でしたが、途中から乾麺の生産に移行。平成10年10月、この地に本格的な乾麺製造工場を完成して、いまにいたります。麺作りに水は欠かせない重要なものですが、ありがたいことにこの沼沢地域には天然の美味しい湧き水がありました。その湧水をパイプで引き込み、麺作りに活用できるのですから強みですよね」。
こう力強く語るのは、株式会社みうら食品の藤田健憲(ふじたたけのり)代表取締役社長。46歳。笑顔も魅力的なナイスミドルだ。恵まれた自然環境も麺作りには武器のひとつだが、生産ラインも徹底した合理化と美味しさへの追求を続けている。まずは衛生面。生産工場に入るときには頭の先から足下までまったく隙間のないガード体制が敷かれている。白衣の義務づけはもとより、使い捨て紙製帽子の着用。さらにローラーを使い白衣のホコリのチェック、1名ずつ入るエアーシャワーの噴霧。仕上げは消毒石鹸を使って指先1本ずつまで行う手洗い。衛生管理システムは万全だ。
「生産ラインもあくまでおいしさを求め、徹底した工程チェックを行なっています。粉をこねる時間、塩水の温度などは1時間おきにチェック。製品は機械で生産しておりますが、考えはあくまで手打ち。 『手打ち』の意識をつねに忘れておりません」(藤田社長)。乾麺ではどこの品にも決して負けない。みうら食品は、トップの経営者からスタッフまで自負と誇りを持っている。

 
根底にあるのは手打ちの考え
 
根底にあるのは手打ちの考え
山形県は長野県に勝るとも劣らない『そば王国』だ。
「山に囲まれた土地だけに、主食としての『そば』文化が定着したということは言えるでしょうね。もちろん、私もお昼ご飯はほとんどおそば」(藤田健憲社長)。県民のそばに対する思い入れは強い。みうら食品では、いつでもどこでも気楽に食べられる乾麺で、山形県民のみならず、全国のそば好きを魅了してきた。
「街中のおそば屋さんを例にあげますね。お湯でこねている店がありますが、そばは熱に弱く、お湯でこねるのは風味を逃します。速くつながるものの、そばのコシがなくなったり、風味がイマイチだったり。やはり、おそばは湯じゃなく水でつながないと。極端に言えば、体温さえじゃま。ベストな麺づくりには手を冷やし、麺に熱を伝えないくらいの覚悟が必要なんですよ」(藤田社長)。
山形県東根市に生産工場を構える「みうら食品」では、機械で麺を作っているものの、根底にあるのは『手打ち』品質。製品に対するこだわりを譲らない。品質の劣化を防ぐため、低温で管理されるそば粉や小麦粉。1時間おきにチェックするミキシング(こね時間)や塩水温度。水分チェック表で徹底管理される乾燥度合い。本乾燥室を覗いてみた。もあっと温かい広い空間。天井には、プロペラ扇風機がゆっくりと回転する。湿度は70〜80%。ここで暖簾(のれん)のように吊された麺また麺がじっくりと熟成されている。まさに理想的な環境だ。ミキシング、圧延、 切り出し、乾燥、切断、袋詰めまで流れるような生産ラインに乗っているものの、どの場面にもベストの商品づくりに賭ける職人達の『こだわり』が感じられる。「乾麺であっても、おいしいと言われるそば屋さんの味に近いものを作り続けるのが私達の使命ですから」(藤田社長)。工場では、毎日6〜7トンが、徹底した製品管理のもとに生産されている。

 
旨い麺づくりを背後で支える製粉所
 
旨い麺づくりを背後で支える製粉所
株式会社みうら食品のラインナップは、Germer Roadではご紹介しきれていないものも含め、幅広い商品が勢揃いする。『とろろそば』『やまいもそば』『板そば振る舞い』『山形蔵王そばきり』『山形田舎そば』『やまいものおそば』『粗挽蔵王そば』『とろろ入り蔵王高原そば』『茶そば』『ざるそば』『二八そば』『二合蔵王そば』『二合山芋そば』などなど、そば類だけでも多岐にわたる。これらおいしいそばを陰で支えている一翼が、山形市滑川にある株式会社鈴木製粉所だ。
蔵王連峰笹谷峠の麓に佇む鈴木製粉所の所在地も、株式会社みうら食品と同じく澄んだ空気に包まれていた。製粉工場と、そば博物館のような「石臼館」が並び、いやがうえにも人目を引く。一般の人でも気楽に入れるのが、石挽き専門の「石臼館」だ。ここでは石臼で製粉する工程をガラス越しに眺めることができる。おもしろいのは石臼挽き体験か。手挽き石臼が6基配置され、だれでも粉挽きにチャレンジOK。
「ゆっくり回すと細かい粒子になりますし、速く回転させると大きな粒になりますよ。自分で挽いた粉は持ち帰りしてください」とは、株式会社鈴木製粉所の鈴木文明専務取締役。1合200円からの石臼挽き体験だが、そばへの愛着が深まること請け合い。じっくりと手間をかける昔ながらの石臼挽きは、熱による変性がなく、そば本来の色や風味、香りが楽しめるのだ。
玄そば、丸抜き、さらしな、一番粉、二番粉、三番粉。挽き方次第で色も味も違ってくるのが、そば粉の面白さ。「さらしなは甘味みが強くて、のどごしも最高。三番粉はえぐみがありますが、味が濃いんです」(鈴木専務取締役)。
1日の生産量は原料換算で約1トン。そば食にして7000食に及ぶ。そば粉の取扱量では山形県で一番という鈴木製粉所。みうら食品のそばづくりを支えている強力な助っ人だ。

 
伝統的な味わい方からアレンジまで
 
伝統的な味わい方からアレンジまで
そば好きにとっての定番といえば、せいろか。冷たいつゆにさっと麺をくぐらせずずっとすすれば、口中いっぱいにそばの旨味が広がっていく。香り、食感、のどごしに、つい頬も緩んでしまう。みうら食品のそばさえあれば、いつでも「おそば屋さんのせいろ」が楽しめるというわけだ。
山形ならではの食し方も覚えておいて損はない。大根汁でいただくもので、「絞った大根汁に、そばつゆと、長ねぎを添えてサッパリといただきます。ピリッと辛い刺激がまた食欲をそそるんですよね」(みうら食品の藤田健憲社長)
山形県の乾麺業界をリードする株式会社みうら食品は、日本そばだけではなく『うどん』や『ひやむぎ』『中華麺』もラインナップに取り揃えている。ちょっとユニークなのが『ひっぱりうどん』の山形バージョンだろう。用意するのは、納豆、サバの水煮缶、薬味、生玉子。これらを小鉢でよ〜く混ぜて、醤油も数滴落とす。うどんは釜あげ風にして準備する。ぐらぐら煮立った釜から麺をたぐり寄せ、材料てんこ盛りの特製つゆに付けてつるつる。納豆の滋味、サバのコクなどが麺にからみ、えもいわれぬ独特のワールドが展開する。納豆からは良質のたんぱく質、サバ缶からはDHA(ドコサヘキサエン酸)が吸収でき、栄養面でもすぐれものだ。
「当社がこしらえたラーメンも人気があるんですよ。そば屋がつくった『まかない風』。ちょっと和風テイストで二日酔いのときにはおすすめかもしれません」(藤田健憲社長)
そばも、うどんも、中華麺も澄んだ空気とピュアな水と厳選した原料がもたらしてくれた結晶だ。そこに職人のこだわりが加わり、絶品・乾麺の登場となる。
盆地ならではの暑い夏、雪で埋まる冬。厳しい自然も別の見方をすれば山形の麺づくりに最適だったのかもしれない。

 
いま、注目される乾麺への流れ
 
いま、注目される乾麺への流れ
日持ちがする。いつでも食べたいときに楽しめる。食感がよい。値段もお手頃。生麺に比べメリットも多彩な乾麺だが、ひとつだけ注意したい点がある。茹で方だ。良質の原料と職人の技を駆使して完成した『こだわりの逸品』でも、茹で方を失敗してしまっては台無しだ。
「袋の裏面には商品ごとに7分とか8分とか茹でる時間を表記してありますが、これはあくまで目安。季節や台所の環境でも条件は違ってきますよね。大切なのは目で茹でる、とい気持ち。大体茹で上がったなと思ったら一本取って歯で噛み、麺の断面を見てください。中心の芯が粉状でなく、ほどよく溶けていたら食べごろのサインです」(みうら食品の藤田健憲社長)
山形県のみならず、兵庫県や新潟県でも乾麺がいま、注目されているという。これまでは郷土食として地元っこだけが味わってきた旨い乾麺が、全国区に躍り出る日も近いのかもしれない。ただいくらブームが起こっても最後に生き残るのは『本物』だけだ。「気持ちを引き締め、安心と安全に裏打ちされたおいしさを今後も真摯に追及していきたいと思います」(藤田社長)
従業員は30人。株式会社みうら食品は規模こそ決して大きくはないものの、乾麺に対する誇りと自信はどこにも負けない。