生産者STORY

 
JA庄内たがわSTORY@ ブナの水音・杵つきもち編
 
山、水、風。庄内の自然が育むおいしさを届けたい
JA庄内たがわ 立川加工所長 鶴巻一宏さんに聞く
煮込んでも伸びすぎないコシ。ほどよい歯ごたえ。鼻孔に抜けるもち独特の香り。『月山のまるもち』は、「去年もおいしくいただきましたから、今年も」という長年のファンが多いという。
 
水と風が自慢の立川
 
水と風が自慢の立川
山形県、庄内地方。東に朝日山地、出羽三山、北は鳥海山に囲まれ、そのまん中を一級河川、最上川が流れ、日本でもトップクラスの平野を形成している。
庄内平野は、最上川だけでなく、赤川や日向川、月光川など、大小多数の河川が流れ、囲まれた山々から清らかな雪解け水を運び入れる、豊かな穀倉地帯でもある。
庄内町に流れる立谷沢川も、そのひとつで、はるか月山からブナの林を抜け、水田に雪解け水の恩恵をもたらしている。
「うちの家内は隣村から来ているんです。そんなに離れているわけではないんですが、水が違うんでしょうね。嫁に来たとき、『ご飯が、おいしーのー』って言うんですよ。息子の嫁は鳥海山のふもと、遊佐町というところから来ているんですが、嫁に来たとき、『ご飯、おいしいですね』って。二代にわたって同じことを言うんです。やっぱり立川は、同じ庄内平野でも米が抜群にうまいところなんですよね」
立川で40年以上農業に携わっている日向さんが話してくれた。
「田んぼの土が良いっていうのもあるんでしょうけど、何と言っても水ですね。月山から流れてくる水。冷たくっておいしい。まわりを山に囲まれているから、昼夜の寒暖の差もある。それから風も強いんです。風が強いっていうのは大変だと思われるでしょうけど、稲にとっては風通しがいいから、病害虫がつきにくいんです。いもち病にもかかりにくい。米がおいしくなる条件がそろっているんですね、ここは」と、日向さん。
立川の〈風〉は有名で、平成7年には、風力発電用の風車をメインにした施設「ウィンドーム立川」もオープンした。風車の町としても知られている。

 
自然のダムで数百年かけてろ過された『ブナの水音』
 
自然のダムで数百年かけてろ過された『ブナの水音』
Germer Roadでは、ここ立川の名産品とも言える、月山の名水『ブナの水音』と季節限定『月山まるもち』『月山きりもち』、正月限定の『のしもち』を紹介している。どれもJA庄内たがわ立川加工所が製造に当たっている。
『ブナの水音』は、平成4、5年度の東北地方建設局の調査で「東北一きれいな川」とされた立谷沢川の、源泉ともなっているブナ林から湧き出た水を濾過し、殺菌のうえ、ペットボトルに詰めている。
ブナ林は、繊毛状の根や腐葉土が雪や雨をろ過しながら保水する「緑のダム」とも言われている。百年単位の年月をかけて次第に地下に浸透し、ゆっくりろ過され、湧き出したナチュラルなミネラルウォーター、それが『ブナの水音』だ。
「水の加工所には、例年、5月の連休過ぎぐらいまで雪が残ってます」と、立川加工所長の鶴巻一宏さん。
工場で働いている立川支所営農課加工係、海藤義晃さんも、「冬は、2〜3メートルぐらい雪が積もって、工場のあたりぐらいまでは、除雪しますが、その先は雪が深くって入っていけないんです」と話す。それほど山深い場所に、『ブナの水音』の工場がある。周囲に民家は多くなく、水源は、ここから車で5分ぐらい山に入り、さらに10分ぐらい歩かなければ辿り着けない。車でも入れない、もちろん、人が入ることもない場所にある。
「冬場、水源からここまで水を運ぶ配管が凍って、水が届かないこともあります。そうなったらしょうがないですね。出るまで待つ。でも、数日で出るようになります。これまで止まってしまったことはありません」と、海藤さん。
「行ってみますか」鶴巻所長と海藤さんに水源まで案内していただいた。

 
『ブナの水音』の水源へ
 
『ブナの水音』の水源へ
林道を5分ほど走って、車が停まった。小川のほとり、木々が茂る森のなかで下ろされた。
「ここらのアブは気をつけないと、射されるとすごく痛いんです」と、鶴巻さん。
顔にネットをかぶり、長袖、長ズボン、長靴。さらに大ぶりの鈴が渡された。
「熊も出るんです。鳴らしながら歩いてくださいね」
八月、夏、真っ盛り。短いながらも山歩きが始まった。
鶴巻さんに従って、小川沿いをどんどんさかのぼる。生い茂っている木々を払いながら、水源を目指す。途中、道を見失ったようだ。
「この前来たときにはあったはずの道がなくなってるんです。土砂崩れがあったんでしょう。勘ですけど、おそらくこっちでいいはずです」 道なき道を奥へ奥へ。
止めどなく流れる汗。
先頭を歩く鶴巻さんが立ち止まった。
振り向き「ここが水源です」と、先の地面を指す。
雑草が生い茂る、その下から、一筋の清らかな水が、勢いよく流れ出していた。はるか昔の雪解け水が、何年もかかってここから流れ出し、そして、工場でボトリングされる。

 
庄内地方独自の品種「でわのもち」
 
庄内地方独自の品種「でわのもち」
その前年、暮れも押し詰まった12月27日、立川の生産者、日向さんを訪ねた。
27日から29日までの3日間、日向さん宅では、朝早くから正月用の『のしもち』をついているという話しをお伺いしたからだ。
吹雪が舞う道から工場の戸を開けると、なかは、心地よい湿気と、もち米の香りが充満していた。
数名が白い割烹着とマスクをして作業している。奥には、どん、どんと自動的にもちをつく機械が設置されている。機械はシンプルそのもの。直径1メートルにも満たない、うす状の台座に、湯気が上がっている炊きたてのもち米を入れると、杵状の棒が定期的に上下運動を繰り返す。米粒がだんだんとつぶされていき、なめらかに。見ていると、つきたてのもちが、杵を跳ね返しているように錯覚する。それほどに、もちに柔軟な弾力があるということなのだろう。
「のしもちは、『でわのもち』と『ヒメノモチ』をブレンドしています。水を入れるとやわらかくなり過ぎちゃうんで、水は入れていません。それでちょうどいいコシがあっておいしいんですよ。まさにモチモチっていう感じです。『月山まるもち』『月山きりもち』は『でわのもち』だけでついています」と、日向さん。
「でわのもち」は庄内地方独自の品種で、「ヒメノモチ」をブレンドすることで、なめらかな食感を出している。
つきたてのもちは、一定量計測して、ビニール袋へ。そのままパックされ、出荷されていく。
「さぁ、ちょっと休憩だ。つきたてのもち、食べてみるかい?」
つきたてのもちに、きな粉を振りかけて出していただいた。
口に入れると、ほのかに温かく、ほどよい歯ごたえと、鼻孔に抜けるもちの香りが心地良い。

 
昔ながらの本物の杵つきもち
 
昔ながらの本物の杵つきもち
立川加工所のもち作りは、昭和63年から始まった。最初は、農家の方々が取り組み、需要が増えてきたので、JAを中心に商品として売り出そうとスタートした。流通はJAが担当しているが、製造は、生産者が担当している。
「これまでは3班あったんだけど、1人お亡くなりになって、いまは、私ともうひとつ、2班だけですね、やってるのは」と、日向さん。
もち米は、通常のうるち米に比べると収量が少なく、生産量を増やすのも容易ではない。
「もち米の収量も少なく、もちをつくのも生産者の方々がやっていますから、どうしても生産量が限られてしまいます。見極めがむつかしいですね。新しい取り引きはあまりありません。続けてお付き合いしているところと、農協のつながりの方にお出ししているぐらいです」と、加工所長の鶴巻さん。
それほどに、『のしもち』と『月山まるもち』『月山きりもち』は希少だと言える。
「私たちは、お雑煮にしたり、海苔を巻いたり、納豆や大根おろしとからめたり、きな粉をまぶしたりね。いろいろして食べるけど、どうやってもおいしいですよ」と、日向さんは笑顔で語る。
「ほかの餅と比べるとどうかって聞かれても、はっきりと言葉では言えないんだよ。粘りっていうか、コシっていうか、食べても伸びすぎない。コシが強いっていうのかなぁ。もちもちっとしてるんだ」
『月山まるもち』『月山きりもち』の特長をお伺いしたら、生産者、日向さんは困った顔で、そう説明してくれた。自分たちで作った米で、自分たちでついたもちを毎年いただいている日向さんにとって、おそらく、もちと言えば、この『月山まるもち』『月山きりもち』と『のしもち』しかないのだろう。
もちをつく前日に精米し、水に浸して一昼夜。朝早くに炊き、もちをつく。手作りの、まさに本物のもちと言える『月山まるもち』『月山きりもち』と『のしもち』。
水がおいしく、米がおいしい立川。だからこそ、もちもすばらしくおいしい。